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幸運を手にしたいときにヒントになる言葉

 古くから伝わる四字熟語やことわざ、名言には、先人たちの知恵が凝縮されています。国や時代背景、慣習が異なるにもかかわらず、先人の言葉が現代に生きる私たちの心に染み入るのは、古今東西変わることのない、人としての生き方や、心のあり方、人と人とを結ぶ絆の大切さを教えてくれるからでしょう。今回は、ことわざの意味と使い方を、不思議な実話と絡めて紹介したいと思います。

水を乞(こ)いて酒を得る

水を求めていて酒を手にいれる。望んでいた以上のものを得ることのたとえ。

働く予定の図書館で出会った幸運

 普段はあまり本を読まないという人も、時間つぶしのために、書店を利用することがあるのではないでしょうか。そのとき、ふと目にした本に心を奪われて、読み始めてしまったという経験はありませんか? もしも、その本がきっかけで、新たな人生が開けたとしたら……。今から約100年前、そんな幸運を手にした人がいました。

 1920年代、フランスの母子家庭で育ったジャン・ポーロ・ラコストは、貧しさから学業を続けることができなくなり、とても困っていました。そんなとき、運良く見つけたアルバイトが、バチカン図書館での翻訳のアルバイトでした。

「採用になれば、学業が続けられる」。そう思ったジャンは、バチカン図書館の司書長に会うために、フランスからバチカン市にやって来ました。ところが、図書館を訪ねると、司書長は不在。彼は館内をぶらつきながら司書長の帰りを待つことにしました。

 貴重な本が並ぶ本棚を見て回るうちに、ジャンは一冊の本に目が止まりました。本のタイトルは『動物学』。著者はエミール・ド・フェビリエ。特に好きなジャンルではありませんでしたが、不思議と興味を引かれたので読むことにしました。「これは面白いぞ」。夢中になって本のページを繰るジャン。気づくと、あと2ページで完読というところまで来ていました。

 そのとき彼は、ページの隅に奇妙なメモが書かれていることに気づきます。<ローマのパラッツオ・デイ・ギウスティズィア裁判所に預けてある、この番号のついた書類を請求しなさい。あなたにとって幸運が待っている>。「これは著者のエミール・ド・フェビリエのメッセージのようだ」。メモを読んだジャンはワクワクしてきました。

 

度重なる偶然が導いた衝撃の真実

 物は試し……と、裁判所に行ったジャンは、本に書いてあった番号の書類を請求してみました。しばらくすると、奥から係員が出て来て、ジャンに一通の封筒を渡しました。「まさか本当にあるなんて!」ジャンは興奮しながら封筒を開封しました。すると中から、書類と手紙が出てきました。

 その手紙は『動物学』の著者、フェブリエの遺言書で、驚くべき内容が記されていました。<世の中の人は私の本を読んでくれたなかった。身内や友人も、出版を褒めはしたが、本に目を通した者はいなかった。だから、私の本を読んでくれたあなたに、感謝のしるしとして私の全財産を差し上げます>と。

 びっくりしたジャンは、フランス領事館に駆け込みました。話を聞いた領事が裁判所に掛け合うと、フェブリエの遺産が裁判所で管理されていることがわかったのです。その金額は400万リラ。当時の日本円で約30万円という大金でした。ところが、イタリアの法律では、親族にもっとも近い者でなければ、フェブリエの遺産を相続できなかったため、ジャンには資格がないと判明します。

 がっかりしたジャンでしたが、ふと、彼の脳裏に重大な記憶がよみがえりました。「確か、母方の姓はフェブリエだったはず」。同時に、祖父が家族を捨てて家を出たと聞かされたことも思い出します。「もしかすると……」。ジャンが調べてみると、果たして、フェブリエこそが、自分の祖父であることがわかったのです。

 1926年、ローマ最高裁判所はフェブリエの全遺産を、もっとも近い親族であるジャンの母親に与える判決を下します。その結果、念願だった学業の継続も叶いました。当初、学業を続ける目的で、図書館で働こうとしていたジャンは、まさに、水を乞いて酒を得たのです。

 思えば、バチカン図書館にある膨大な蔵書の中で、手に取った1冊の本が祖父のものだったこと自体、奇妙なことですし、ジャン以外に誰も裁判所を訪ねなかったことも不思議ですよね。そして何より、ジャンが行動を起こさなければ何も起こらなかったでしょう。こうした度重なる偶然が、ジャンの運命を大きく変えたのです。

 ジャンのような幸運に恵まれる人は、めったにいないでしょうが、一念発起して行動を起こしたり、誰かの言葉を聞いたり、書物を読んだりしたことで、人生を開花させることは誰にでも可能でしょう。

 5月の大型連休を控えた4月30日は、図書館記念日だそうですから、この機会に図書館に足を運んでみてはいかがでしょうか。無形の“財産”を手にするチャンスはあなたにも無数にあるはずです。

(構成・文/松岡宥羨子)

 

参考文献/『科学では説明できない奇妙な話』(河出書房新社)

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