一生に一度会うこと。一生に一度しか出会わない貴重な機会。安土桃山時代の茶人・千利休の弟子、山上宗二が茶会の心得を記した著書、『山上宗二記・茶湯者覚悟十体』に記された「一期に一度の会」から出た言葉。
ご存知の方も多いと思いますが、『フォレスト・ガンプ』(95年日本公開。トム・ハンクス主演、ロバート・ゼメキス監督)には、「一期一会」という副題が付いています。副題を意識しながら映画を見ると、私たちが忘れがちな大切なことを思い起こさせてくれる気がします。まずは、映画の大筋を紹介しましょう。
知能と背骨に障害を持つ少年、フォレストは、いつも同級生にいじめられていましたが、やがて俊足を買われ、アラバマ大学に入学。アメリカン・フットボールの選手として大活躍します。陸軍入隊後はベトナム戦争に出征、銃撃を受けながらも、負傷した隊の仲間を次々と安全な場所へ運び、命を救いました。しかし、一緒にエビ漁を行う約束をしていた戦友・ババは、フォレストの腕の中で息絶えます。フォレストは勇敢な行為を讃えられ、ジョンソン大統領から議会栄誉賞を贈られますが、両足の膝から下を失った上官、ダン小隊長は、名誉の戦死を阻んだフォレストを恨みます。
除隊後、彼はババとの約束を果たすためにエビ釣り漁船を買い、「ババ・ガンプ・シュリンプ社」を設立。荒れた生活を送っていたダン小隊長を誘って海へ繰り出します。幾日も不漁が続いたある日、ハリケーンに遭遇したことで奇跡が起こります。他社の漁船が大破する中、フォレストの船は無事帰還。その後は大漁が続き、二人は大金持ちなるのです。
ダン小隊長はベトナムで命を救ってくれたフォレストに感謝し、エビ漁の売上金を当時のベンチャー企業、アップルに投資。フォレストは億万長者になります。しかし、彼は「必要以上の金は、意味のない無駄金」と言っていた母の言葉を思い出します。そこで、教会と漁師共済病院へ多額の寄付をして、ババの実家にも大金を送りました。
このようにして、フォレストは人生の勝者になるのですが、それまでには、多くの貴重な出会いがありました。最初の出会いは、「お前は他の子と変わりはない」と、一般の公立校に通わせ、チャンスを与えようとした母親です。彼女は息子が自信を持てるよう育て、慈しみます。そして「人生はチョコレートの箱。食べるまで中身は分からない」と言い遺してこの世を去って行きます。
一方、母が通わせてくれた小学校で出会った少女、ジェニーとの間には、かけがえのない友愛が芽生えます。成長したジェニーは自分の道を見つけるためにフォレストの元を去りますが、心の片隅にはいつもフォレストがいました。母を亡くし、ジェニーを思慕するフォレストの元へ、彼女は突如姿を現します。そして彼の愛を受け入れ、再び去るのですが、自分の死期が近いことを知ると、心から求めていた大切なものに気付きます。彼女はフォレストの元に戻って結婚し、シングルマザーとして育てていたフォレストの子を託して短い生涯を終えました。
また、軍隊でのババとの出会いはフォレストの運命を大きく変えました。ダン小隊長もしかり、戦地で彼を救い、交友を深めなければ億万長者にはならなかったでしょう。
しかし最大の出会いは、自分自身との出会いかもしれません。フォレストには損得勘定がなく、野心も名誉欲もありませんでした。まっすぐな心で人を受け入れ、愛する人たちとの約束を守って生きてきただけなのです。だからこそ、彼は慕われ、多くのチャンスと栄誉を手にすることができたのではないでしょうか。
「今」という時の中にいる自分、その自分と他者との出会いは、二度と訪れることのない貴重な時間です。生涯に、ただ一度の出会いを大切にしたいものですね。
(構成・文/松岡宥羨子)