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春の風物詩・土筆(ツクシ)を楽しむ ~ 3億年も続いてきた生命 〜

 暖かくなるにつれ、地面の枯れ草の下から木の芽、草の芽が顔を出し始めます。草原や川の土手、田畑のあぜ道、路傍に、小さなツクシの芽を見つけると、春を感じますよね。和歌の世界でも季語として登場するツクシは、春の訪れを一番に告げる植物です。

 ツクシはシダ類トクサ科のスギナ胞子茎(胞子をつける茎)で、伸び始めのころの姿が筆に似ていることから「土筆」と表されます。ツクシが成長すると、付近にあった小さな緑色の芽、スギナも伸び始めます。ツクシとスギナは地下の茎でつながっていて、どちらも茎にできる“貯蔵庫”、無性芽(むせいが)に蓄えられた養分で育つのです。

 春に芽を出したスギナは、ツクシが枯れたあとすくすくと成長し、冬に枯れるまでの間に光合成を行って、地下茎にある無性芽に栄養を蓄えます。夏期には地面の下で、早くも翌春に芽生えるツクシができ始めています。スギナがツクシの親と言われるのは、スギナによって蓄えられた栄養でツクシが育つからです。

 

 地下にできたツクシは、厚い袴(はかま)に包まれて育ち、早春に地上に顔を出します。成長すると、ツクシの穂先にある小さな胞子嚢(ほうしのう)が開き、中から胞子が出てきますが、その数、なんと140万~220万。風に乗り飛んで行った無数の胞子は湿地に落ちると、水分を含んで発芽し、前葉体(ぜんようたい)という植物になります。前葉体では卵細胞と精子が作られ、受精すると芽を出します。この芽がスギナです。こうして再び、スギナとツクシは自然のサイクルを繰り返していくのです。

 

 スギナは地下茎や無性芽で成長し、子孫を残せるのに、なぜ、前葉体を作るのでしょうか。そのわけは、受精のときのかけ合わせにより、環境の変化に強い“子”が誕生する可能性があるからです。スギナやツクシの先祖は、今から約3億年前に水辺に生えていた蘆木(ろぼく)という生物で、樹木のように大きな姿をしていました。その後、環境の変化に適応しながら子孫を残し、現代のような姿に変わっていったのです。おどろくことに、体の仕組みは太古からほぼ変わっていないと言います。

 

 このようにして子孫を残してきた生命力の強いツクシは、古くから食用や、利尿薬、止血薬として利用されてきました。ツクシには、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、カロテン、ビタミンB1、B2、C、E、葉酸、食物繊維などの栄養素がバランス良く含まれており、整腸・利尿作用、高血圧や骨粗しょう症の予防、精神安定、発ガンのリスクを下げる効果があると言います。また、ツクシを乾燥させた問荊(もんけい)という生薬には、利尿作用のほか、漆(うるし)かぶれ、花粉症にも効くそうです。

 

 美味しいツクシを取るには、南斜面の日当たりのよい土手、肥料の効いた休耕畑の柔らかい土に生えているものを探すことです。また、茎が太いもの、穂先が程よく締まった、育ちすぎていないもの、袴(はかま)と袴の間隔が開きすぎていないものを選ぶのもポイント。調理するときは、袴を取り除いてサッと下茹でし、冷水に放って水気を切ります。灰汁(あく)が気になる場合は、2、3回水を取り替えます。茹でたツクシは、お浸し、佃煮、天ぷら、炒めもの、ツクシごはんなど、いろいろと楽しめるでしょう。

 

 春のうららかな陽気に誘われて、ツクシはぐんぐん成長していきます。暖かい日には、土手を散策しながら、“春の風物詩”を見つけてみませんか。

 

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